HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~


家を出る前、玄関に置いてある姿見の鏡で全身をチェック。


白いブラウスにネイビーとブルーの織が交ざったチェックプリーツスカート、黒のハイソ。濃紺のブレザーを羽織って、ネクタイは……


襟元にぶら下がったネクタイを絞めようとして、


やめた。


学校まで最寄り駅から2駅と言う道。あたしはホームで久米と並んで到着する列車を待っていた。


「あれっ!こないだの子じゃない?確か水曜日ぐらい見た!」と近隣の男子高生がひそひそ噂しているのが聞こえた。その視線の先があたしたちだと言うことも気付いた。確かに水曜日にこの電車を使う率は高い。てか噂話はもっとひそやかにしろよ。


「ホントだ!マジで!ぅわ!やっぱ今日も超可愛いじゃん!」


(なか)高の制服だよな、あれ」


「有名私立校かぁ、いかにもお嬢っぽいよな」


お嬢ではないし、有名私立か?金積めばどんバカでも入れる高校だよ。


とあたしが心の中でツッコミをしている中


ヒソヒソ


噂話をされていると言うことを知ったのかすぐ隣に並んだ久米があたしの手を取り、そっと指を絡ませてきた。熱い―――指先……


ちょっと驚いて顏を上げると、久米は優しく微笑んでいた。


「こうやってるとさ、俺たち本当のカップルみたいじゃない?」


「そうだね。“ごっこ”だけどね」そっけなく言って、でも手を振りはらうことはしなかった。


「あ!あの隣の男、手繋いでる!」


「くっそぉ、やっぱ彼氏もちかぁ!」


男子たちのひそひそが一段と大きくなった気がした。


うん……あたしたち、ちゃんと“恋人ごっこ”できてる。そう実感できた。



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