HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
岩田さんとカラオケ行くって話になってついでに好きなアーティストの話でちょっと盛り上がった。あたしは昔からあゆが好きだったけれど、岩田さんは今流行りの男子アイドルグループが好きって言ってた。そのアイドルの一人がどうやら久米に似てるらしい。
「かっこよくて、優しそうで…もう、ホント王子さまみたいで!」
王子様……岩田さんがそんな存在に憧れてたのが意外だったけれど、まぁ久米のこともそんな風に見てたふしがあるし、納得と言えば納得だけど。
でも久米は王子さまじゃなくて似非王子だ。
岩田さんはそのアイドルグループのライブイベントに行ったときの写メを見せてくれた。写メの中の岩田さんは白地に黒い英字でそのグループのロゴが入ったパーカーを着ていて、連れの女の子と仲良さそうに身を寄せ合って笑顔で写っていた。自撮り写真だ。
ライブイベントと言ったが、ドームみたいな大きな場所ではないらしく、小さくはないけれど地方のホールだと。賑やかな雰囲気が伝わる背景、狭い画面にはほとんど女の子たちで埋め尽くされていて、その写メを見てちょっと目を瞠った。
写メの隅の方に―――…
一人の男の姿が。
「ねぇ、これ。拡大できる?」
あたしが聞くと岩田さんは「うん、できるよ」と言って手慣れた手つきでスマホに日本の指を滑らせる。
拡大された画像はだいぶ荒くなっていて、しかも遠目であるし目深に被ったキャップのせいでこの男の顏が判別できない。
でも顏はどうでもいい。問題は―――
そのキャップのツバの隅に
あの薔薇のモチーフの缶バッジ。
あたしは慌てて岩田さんを見上げると、岩田さんはちょっと驚いたように目を開いた。まるであたしが心霊写真を見たかのように思ったのかもしれない。