HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
「ごめん、何でもない。じゃぁね、鬼頭さん」と岩田さんは無理やり、と言った感じでにこやかに去っていこうとしたが、その手をあたしが掴んだ。岩田さんがちょっと驚いたように顔を振り向かせる。
「ねぇ、買い物だけどさ、今日行かない?元々久米と遊ぶ予定だったからあいつも一緒だけど」と言うのは完全な嘘。「ほら、文化祭の買い出しとか兼ねて」と付け加えると
「え?」と岩田さんは目をきょとんとさせて、でも慌てて
「うん!♪行こうっ!じゃ、あとでね」と元気よく言って席に戻っていった。
「と言うわけで久米」と男子との会話を終わらせて帰りの準備を始めていた久米に向き合うと
「うん」と久米は多くを聞かず、小さく頷いた。久米は―――岩田さんとの会話を聞いていないようだった。つまり彼女がライブでいったホールの話とか知らない筈。
同じく乃亜も梶もそれぞれ会話していて、気付かなかっただろう。
カラオケ―――…
ふと、さっき自分が言った案が意外に使えることに気付いた。
「これなら大丈夫かも」と独り言を呟くと「え?」と久米が返してきた。
「ううん、何でもない」と真顔で返し、
「ホームルーム始めるよ~」との水月の掛け声で、静かに……なる筈もなく相変わらず騒がしいクラスの中、あたしは出欠簿を開く水月の姿を見つめた。
もしかして―――案外早く、彼の元に飛び込める日が来るかも。
それは一筋の光に思えたけれど、でも実際はその光はまやかしだったことに気が付くのは、もうちょっと後。