HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~


「ぼ、僕……はじめて誰かに話しかけられたって言うか……」根岸はこちらが聞いていないのに、話し始めた。


ことの発端は、楠の前を歩いていた根岸がハンカチを落としたことにあるらしい。


『あ、ねぇ落としたよ』と楠はハンカチを拾い笑顔で根岸に手渡した。そのとき


『ねぇこのハンカチってエリーゼのでしょ?』と聞いてきたらしい。


“エリーゼ”と言うのは若い女の子に割と人気のあるブランドで、そのハンカチは元は根岸のお姉さんの物だったらしい。色こそ白いが、金色のロゴでブランド名が入っているらしく、それは年頃の男子が持つ物とは到底思えないものだった。


それでも楠は気持ち悪がる様子はなく


『あたしもこのブランド好き~、しかもこのデザイン、廃盤になっちゃったんだよね~


欲しかったけど、買おうと思ったら手遅れで』と楠はちょっと笑ったようだ。


その砂糖のようなふわふわの優しい笑顔は勿論、根岸を気持ち悪がる様子もなく普通に接してきた楠に一目惚れした、とのこと。




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