HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~


まぁ確かに楠は男子に絶大な人気を誇っている。


雅と違って人懐っこい所もあって、男女問わず人気があるのだ。しかしながら皆は知らない。楠は一年前にこの学校イチ恐れられる楠 明良と付き合ってるなんて。


楠 明良はワルだったが、見た目もいいし、ワイルドな所が女生徒の心をくすぐるらしい。噂に寄るとひそかに彼のファンクラブがあるとかないとか。それだけじゃなく同性からも慕われ特に下学年の男子生徒から一目置かれる、所謂憧れの対象だった。梶田がいい例だ。


それに楠自身もああ見えて、実は雅より芯が強いところがある。いや、いっそ怖いとも言える。


……そんなことは口が裂けても言えないが。


何と言うか…ハンカチ一つで浮かれて(?)いる根岸がちょっと不憫に思ったり。それを何と勘違いしたのか


「わ…分かってます…ぼ、僕なんかが楠さんに釣り合うわけないって……く、楠さんはきっと梶田くんみたいな……そう言う人が好きなんだって…」


梶田?まぁ楠 明良と路線は同じ気がするが。


それに今は楠が梶田と『付き合って居る』と言う(てい)になっている。それを根岸が知っているのか知らないのか…


何と答えていいのか分からず、僕は苦笑い。梶田よりタチの悪い男と付き合ってるけどね。楠 明良もな~こんな校内でも人気の楠を放って何で浮気なんかするのかな~…(あ、これはまこに聞いた話)結果元サヤ(?)に戻ったらしいけど。


一途に想ってくれる根岸の方がよっぽど楠を大事にしてくれる気がするが…


「まぁでも、ここだけの話…」僕は根岸に顏を寄せると内緒話をするようにそっと耳打ち。


「楠はああ見えて、鬼頭より強くて怖いところがあるからな」


本人に聞かれたら殺されそうな台詞だし、根岸の夢を壊すような発言だが


「だから根岸にはもっと優しくて可愛い彼女ができるよ」と大真面目で付け加えると、根岸はまたも顔を真っ赤にさせて


「か、彼女!?」と声をひっくり返させた。


「そうそう、同じ趣味の人たちと話すのもいいんじゃないかな。この学校、漫画研究会みたいなものもあるし」僕が提案すると、


「そうなんですか…」と根岸は目をぱちぱち。けれどその瞳にどこか輝きを宿していた。


そんなことを話している内にあっという間に休憩時間は終わってしまい、残りの時間で慌ただしくも何とか弁当を食べ終えた根岸が、帰り際


「また……またここに来てもいいですか…」とおずおずと申し出てきて


「いつでもいいよ」僕は笑顔を返した。


しかし―――根岸がことの真相を話してくれても


森本が帰っていった理由は分からなかった。




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