HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~

「先生優しい!」じーん、と言った感じで中川のお姉さんが目を潤ませたが、すぐにコロっと態度を変えて


「ところで、文化祭のチケットありがとうございます。健一から聞きました。先生が用立ててくれたとか♪」


「いえ、僕は何も…」と言いかけ中川をちらりと見ると『頼む!何も言わないでくれっ』と言いたそうに中川が顏の前で拝む仕草。僕は空笑いを浮かべながら


「中川くんは他校にも友達が多いみたいで」


「ああ、悪友みたいな感じですよ」と今度はお姉さんが白い目。「てかあんたまだ中学のツレとつるんでるの?」


「うっせぇな、俺が誰とツルでたっていいだろ」と中川はあからさまに顏をしかめる。


「まぁまぁ…友達が多いことはいいことですよ」と僕がお姉さんを宥めることに。森本親子と同じようなことをする羽目になったが、こちらは幾分とやりやすい。何と言っても姉弟間に変な確執は無さそうで、世間一般的な姉弟と言った関係に見えたから。ありがちな会話だ。


「先生のクラスは劇をやるとか。あたし絶対見に行きますね!」と勢いこまれ、その勢いに僕は若干引き腰。


「え、ええ…お待ちしてます」と何とか頷くと


「神代、引いてるって」と中川が助け船(?)を出してくれた。


「でも、まぁ見ものだよな。何て言ったって“あの”鬼頭が主役だし」


突如として中川から雅の名前をひっぱり出されて僕はぎくりとなった。


「キトウ?」とお姉さんが口の中で復唱する。


「うん、すっげぇマジで可愛い女!そこいらのアイドルよりも。あいつが主役だからぜってぇ他クラスの男票が集まるに違いない」と中川はガッツポーズ。


確かに雅はどの生徒に比べても可愛いが。これはあくまで恋人としての贔屓目で。


でも、中川は雅を性的な目で見てる感じではなく、あくまで見世物的な扱いだ。それもそれで考えものだが。


「ところで先生て彼女居るんですか~?」とお姉さんが“キトウ”の話を早々に打ち切り、興味津々で聞いてきて


「んなこと聞くなよ。あ、でも別れたとか言ってたよな、こないだ久米が」と中川がにやにやして言い、『久米』と言う名前を聞いたとき、またもギクリとしたが





「別れてない」




僕はハッキリと言い切った。さっき結ちゃんに言ったときはあんなに躊躇したのに、今は何故か意図も簡単に口に出る。


「え、だって久米が…」


「あれは彼のジョークだよ」僕はわざとらしく笑った。「ちゃんと後から叱っておいたから」と付け加えて。


「何だ~、姉貴残念♪」と中川はにやにや顏を今度はお姉さんに向けた。


「うっさいわね!ぬか喜びさせるんじゃないわよ」


と、またキャンキャン姉弟喧嘩が始まった。賑やかだな…


二人の喧嘩を見守って(?)いると、下駄箱の上に置いたケータイがヴーヴーと震えた。


「先生、鳴ってんぜ」と中川が喧嘩を中断して僕のケータイを目配せ。


「ああ…」と言って引き寄せようとして、僕は目を開いた。着信を報せるランプがピンク色に点滅している。他の人はブルーなのに、この“特別な人”だけはピンクに設定してある。つまり誰から掛かってきたのかすぐに分かって…


サブディスプレイに


着信:雅


と、流れる文字を見たとき僕は若干不自然な程にケータイを手で覆った。



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