HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
「森本さんは…あ、お姉さんさの方ね。感じ良い子であたしも結構好きだったけど、お母さんの方は嫌いだったな」とお姉さんはハッキリと「嫌い」と言い切り顏をしかめる。
「お母さん?」僕が聞くと
「うん、小学生のときって友達の家に遊びに行ったり来たりするじゃん?だからあたしも行ったわけね、森本さんち。近かったし。そしたら家に入る前にあのお母さんから『友達はきちんと選びなさい』って言って、門前払い。あのときは流石にショックだったけど、今考えたら『はぁ?』て感じ」
お姉さんはちょっと眉を吊り上げる。
つまり、あのお母さんは昔、結ちゃんの教育に熱を入れていたと言うわけか。以前森本から聞いてたけど、まさかこんなレベルだったとは。そしてその母親はやはりこの地域の同じ年代の子の親の中でも評判は良くなかったみたいだ。
「でもね、ちょっと噂になってるの」中川のお姉さんは声を潜めて、でもどこか楽しそうに目を輝かせて
「森本さんのお父さん、外に女作ってるらしいの」
え―――……?
「あー、それ俺も聞いたわ。この辺じゃ結構有名な話だよな。しかも割と昔から」と中川も苦笑いで頷いている。
「ま、あんな奥さんだった誰だってイヤになるでしょ」とお姉さんは「してやったり」と言う顔つきで意地悪そうに笑う。
「だからさ、あくまで想像だけど自分の方を振り向いてもらいたいのか、お父さんを見返してやりたいのか、自分の娘たちに過大な期待を寄せてると思うんだよね~」
「そのこと、森本姉妹は……」
「さぁ分かんね。てかそんな親しくしてねぇし」と今度は中川が答えてくれた。
「でも流石に気付くでしょー。近所で有名になってるぐらいだし」とお姉さんは腕を組んだまま苦笑いで中川を見て、中川は軽く肩をすくめた。
そんなやり取りが続いて、途中お姉さんが「喋り過ぎた」と言う感じでバツが悪そうにちょっと舌を出し
「ところで森本さんちにどういった用件で?」とお姉さんが本来の質問に戻り
「いや、ちょっとした家庭訪問です。最近森本…さんは体調が悪そうだったので」
半分嘘で半分本当のことだ。