HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~


―――「……う。鬼頭」


聞きなれた声で呼び起こされて、あたしはうっすら目を開いた。


目の前に水月が数学の教科書を手に困ったような、ちょっと怒ってるような複雑な表情を浮かべていた。


淡い茶色の瞳があたしを捉えている。


「まったく…君はいつも僕の授業で居眠りしてるね」


授業……


ゆっくりと視線を辺りに巡らせると、みんな机に向かって教科書を開いていたり、無駄話をしていたり。でも寝ている生徒はいない。


水月はちょっと呆れたようにため息を吐いて腕を組む。


あたしはまだ重い瞼を擦って、「すみません」何とか答えた。


「問い5~7を前に出て解くように」


そう言われて、彼は背を向けた。寝ている人がいない理由が分かった。


居眠りをするとこうやって難題を解かされるからだ。


恋人だと言うのにまるで容赦がない。


ま、無理もないか。あたしたちの関係は一部を除いて秘密だしね。


って言うか、水月……アナタは何でそんな元気(?)ってか目ぱっちりなの…


昨日は明け方までベッドでも元気だったのに。


おまけであたしは眠くてしょうがない。


「もぉ雅ったら……」


とすぐ後ろの席で、あたしの親友ともお姉ちゃんとも呼べる乃亜が苦笑していた。


「ばぁか」と前の席では梶こと、梶田 優輝。


こいつとは一年のときもクラスが一緒だった。


特別気が合うってわけじゃないけど、まるで子犬のようにあたしの周りを纏わりついてくる。


乃亜はホントは三年生だけど、病欠のためダブってる。


あたしたち三人は出席番号で席が近いってのもあって、しょっちゅうつるんでるわけ。


って言うか、このクラス分けってどう?




担任は




恋人の水月だし。





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