君のためにできること
玄関のチャイムを鳴らすと、なつきが慌てて出て来た。


白いパジャマ姿なのは、また夜通しでレポート書いていた証拠だ。


「どうしたのよ、本当に。メールとかわけの分からないこと言ってて意味分かんない」


「驚かないで聞いてくれ、なつき。なつみからメールが届いたんだ」


「悪戯じゃなくて?」


「これが証拠だよ」


俺は携帯電話を取り出し、メールを見せた。


焦りと興奮で吹き出た汗を拭いていた俺に、黙っていたなつきが口を開いた。


「何もないじゃん」


「え?、何言ってるんだよ。ここに優へって・・・あれ?」


メールは綺麗に消えていた。


何で消えているのだろう?俺は削除した覚えはない。


「昼間っから寝ぼけないでよ、バーカ、バーカ」


「そんな、さっきまでちゃんとここにあったのに」


途方に暮れる俺に、なつきは「寄ってったら」と、笑顔で言った。


「いいや・・・」


俺は力なく断り、今来た道を戻りだした。


「待ってよ」


背中ごしに感じる柔らかい感触。なつきは俺の背中を抱いていた。


「なつき・・・」


「行かないで!」


「なあ」と、俺は言った。


「何?」


「メールのこと、本当だよ」


「優が嘘つきじゃないのは知ってるし、信じるよ」


「ありがと・・・」


「ひとつだけ訊いてもいいかな」と、なつきは俺の後ろで言った。


「本当は私に会いたい口実じゃないの?」


俺は沈黙した。


「なつみのことは何でも知ってるくせに、私のことになると何も知らないんだね。寂しいんだよ、私」


「ごめん」


俺はぼそりと呟き、なつきの手をどけた。


「帰るよ」


なつきは目を見開いて、大粒の涙をこぼした。


「ばか、ばか、優!」


俺は泣いているなつきを気にしながらもメールのことが気にかかっていた。


「また連絡する」と、俺は言い、なつきと別れた。
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