君のためにできること
暗示
大学も休みに入り、ゆっくり、体を休めることに専念できるようになった。


あれから、一度もメールは来なかった。


俺は携帯電話とにらめっこして、ベッドの上で幾度となく、寝返り打っていた。


思い浮かぶのは、なつきの泣き顔。また泣かせてしまったという罪悪感を感じていた。


(本当になつみもよく泣いていたな)


くだらないことで喧嘩して俺達はたまにではあるが、お互いを傷付けていたようだ。


でも、それはあくまでも、他人から見れば本当に些細なものであって、深刻なほど、心配はしてくれなかった。


(ただ、痴話喧嘩にも見えていたかもな)


周囲からすれば仲の良い、カップルに見えていたかもしれない。


事実だ。


確かに、俺達はお互いの意見をぶつけ合い、喧嘩になってはいたけど、それは全部愛情表現の裏返しだった。


好きになれば好きになるほど、お互いのすべてを知りたいと思うことは、俺達だけじゃないはずだ。


(そうだよな)


また寝返りを打つ。白銀のカーテンが日光を遮り、いくつもの光の柱を作っていた。


ぼんやり天井を眺めてみても、煙草のヤニで黄色くなった壁しか見えない。


一体、俺はいつまでこうして、なつきを避け続けなければいけないのだろうか。
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