揺れない瞳


「私の父は…会社を経営してるらしいから…それに、今の奥さんとの間に子供もいないみたいだから。
お金には余裕があるって言ってた」

俯きがちになってしまう気持ちに声も小さくなってしまう。
父の事は、あまり話したくないって声音にも表れていて、央雅くんも察してくれてるのかそれ以上は聞いてこなかった。

ただ、軽く笑いながら。

「俺んちは両親医者だけど開業医じゃないからな。
世間で思われてるほど裕福でもないし。
それでも、医学部に通えるんだから俺は恵まれてるんだけど」

「うん、恵まれてるよ。ちゃんと、央雅くんを支えてくれる家族がいるもん。
芽依さんだって、いつも央雅くんの事自慢の弟って言ってるし。
いいね、姉弟って」

「…まあな」

突然低くなる央雅くんの声に違和感を感じた。
それまで央雅くんから感じていた、私を包むような温かい雰囲気を閉ざすような声。
視線も冷たくはないけれど、何かを思い出した途端、遮るように気持ちを隠してしまったよう。

私の向こうにある何かを見つめるようにピントの合わない視線を送り続ける央雅くんが何を考えているのかわからなくて戸惑った。
時々見せる央雅くんのそんな様子は、その原因が私に関係するのかどうか理解できないけれど、いつも。

そう、芽依さんに関係する話題になると、こんな表情をして苦しげに立ち尽くしている。

あの夜、私の成人式の写真を見ていた時にもこんな顔してた。

そして、央雅くんの苦しげな顔を見る度に、私も苦しくなる。

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