揺れない瞳
「そっか、難しいんだね。……忍くんだって、卒業したらゲーム業界に就職だもんね。なかなか厳しい世界なんだ」

「え、ゲーム業界?」

紗代子さんの言葉にすぐさま反応してしまった私は、運転席の紗代子さんと、後部席の川原さんを交互に見遣った。
ふふふっと笑う紗代子さん、苦笑する川原さん。
二人とも、今の私の様子を楽しんでいるようにも見えた。
『ゲーム業界』なんて、服飾を勉強している私達との距離は結構あると思う。

「冗談……ですか?」

躊躇いがちに尋ねた私に、川原さんは即座に

「本当」

と答えた。明らかに私の質問を予想していたかのような答え方は、私が投げた質問を川原さんにぶつけたのは、私が初めてじゃないのかなと思えた。

「簡単に言うと、ゲームを作る仕事。もともと、ゲームに出てくるキャラクターの衣装をデザインする事に興味持ったせいで今の大学に入学したんだ。
それなりに才能あったみたいで楽しかったけど、ゲームを作る仕事がしたかったから。まあ、初志貫徹っていうことだ」

「初志貫徹……」

思ってもみなかった川原さんの言葉に驚いていると、くすくすと紗代子さんが笑い出した。軽やかに運転しながら、柔らかな表情がとてもきれいに見える。

「忍君は、凝り性だからね。ゲームのキャラクターの衣装もそうだし、ゲーム音楽にもこだわりがあって、忍君の自宅なんて音楽の機材でいっぱいだよ。
いつ歌手デビューするの?っていうくらいに揃ってる」

「はあ……」

驚きのあまり、私は固まった表情を崩す事もできずにいた。
川原さんを見ている私の表情はきっと、とぼけたものだろうと思う。

今日の放課後に知り合った川原さんと、紗代子さん。
私とは、それまで何の接点もなかった二人。
普段から、新しい人間関係を作ろうとしない私には、こうして知り合っただけでも珍しい出来事なのに。

今までにないタイプの二人とこうして話している自分の状況が、信じられなかった。
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