揺れない瞳
カフェでの支払いを終えた川原さんは、自分が放っておかれた事に苦笑しながら紗代子さんの車に乗り込んできた。
助手席に座る私には『そのままでいいよ』と言いながら後部席に座ってくれた。

加賀さんのお店の場所を紗代子さんに告げると、『あ、知ってる知ってる』と安心したように車を出してくれた。
既にバイトに入る時間は過ぎているから、こうして車で送ってもらえるのはありがたい。

きっと、15分くらいで着くはず。
小さく息を吐いて、落ち着いていると、紗代子さんの声がした。

「不破さんは、服飾関係の仕事を目指しているの?」

「えっと……特にそういうわけではないんですけど」

「そうなんだ。あんなに素敵なドレスを作るから、デザイナーを目指してるのかと思ってたわ」

残念そうな声でそう呟く紗代子さんに、どう答えていいのかわからないままでいると、後部席の川原さんが話に入ってきた。

「俺らの大学って、名前が知られているデザイナーも卒業してるけど、それはほんの一握りだから。将来、デザイナーとして食っていくのは難しいよな」

川原さんの見た目と同じような冷静な声が車内に響く。
落ち着いた言葉には説得力があって、頷くしかない。
確かに、何人もの著名なデザイナーを卒業させている大学だとはいえ、実力と運が必要な職業だ。
趣味の範囲を超えて、仕事として成り立たせるにはかなりの覚悟と努力が必要。

自分の才能がどれほどかは自分が一番わかっているから、軽々しく目指すなんてできない。
それに、自分がそれを望んでいない事も自覚している。
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