揺れない瞳



「送ってくれてありがとうございました。
気をつけて帰って下さいね」

手を繋いでいた時には感じなかった恥ずかしさに思わず俯きがち。
央雅くんのスニーカーを意味なく見つめながら小さく呟いた。

今日限り会えない人だと思う事は、恥ずかしさや照れくささも押しやる勇気にも繋がるんだと気付く。

男の人と手を繋ぐなんて、私の人生にはなかった時間だった。
実際に今日経験してみて、やっぱり、単純に恥ずかしさもあるけれど。

気持ちが通じてるって感じる央雅くんの体温を手の平から体全体に通していくような時間を知った途端に。

どんなに照れくさくても恥ずかしくても、今日限りだと思えば、この温かい手の平の幸せを受け止める勇気が私に生まれた。

だから、央雅くんが離そうとしない事をいいことに手を繋いだままでいた。

その体温を手放した途端に感じる寂しさは確かにあるけれど、いつも一人でいる私にはそんな寂しさは慣れている。


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