揺れない瞳


「私……」

俺の言葉にじっと耳を傾けていた結乃は、ほんのり赤くなった顔で

「自分が強くなったって思えないし、これから成長していけるのかもわからない。
最終審査に残ったのも奇跡的だし、父さんに会うのだって……今だってまだ怖くてたまらない。
将来を考えると、自分はどう進んでいけばいいのかもわからなくて焦ってるし。

……でも、私、央雅くんが側にいてくれたら。
時々でいいんだけど、私を好きだって伝えくれたら、生まれて良かったって思えるから。

だから、央雅くん、私を見捨てないでね」

結乃は俺の瞳を見つめて必死で気持ちを紡いだ。
たどたどしいけれど、その気持ちはしっかりと俺に伝わった。

そして、彼女は両手で俺の右手を掴むと、口元に寄せて

「私の……央雅くん、だよね」

囁いた。

その言葉だけで、俺の気持ちはぎゅっと掴まれた。
この先、どんな女だって敵わないくらいの力を持つ言葉が落とされて、たまらず結乃を強く抱きしめた。

「同じ言葉を返すよ。お前は、俺の結乃だ……。だろ?」

結乃の首筋に囁くと、結乃の体はびくっと震えた。
そして、俺に預けてきた結乃の華奢な体を抱きこんで、この先二度と離れたくないと思わずにはいられない。
結乃を側に置いて、守ってやりたい。

確かに通じ合ったお互いの思いに浸りながら、俺たちはようやく本当の恋人同士になれたと実感した。

< 256 / 402 >

この作品をシェア

pagetop