揺れない瞳
「怒ってるわけない。体をかきむしりたいくらいにうずうずするけど」
「は?肌の調子が悪いの?」
「……なわけないでしょ」
ふう、と大きく息を吐いた加絵ちゃんは、駅からの道をずんずんと歩いていく。
少し遅れて歩く私を時々気にしながらも、なんだか私とは話したくないような背中を揺らして、ただまっすぐに歩いてる。
「加絵ちゃん……私、何かまずい事言った?」
慌てて加絵ちゃんの隣に並んで、顔を見遣ると、苦しげに口元を引き締めていた。
何かを堪えているような、ぎゅっと耐えている表情は、それでも尚整っていて、思わず見とれそうになる。
何が加絵ちゃんの気に障ったのかわからない私は、見とれてる場合じゃないんだけど。
「結乃が幸せならさ、いいの、別に。
央雅くんの言葉が嘘っぽいとか、結乃みたいに恋愛初心者の女の子をだますなんて簡単だよなあとか、そんなの私が勝手に感じてる事だし。
……央雅くんが結乃を傷つけるようなこと、しなきゃ、それでいいの」
歩く速度はそのまま落とさずに、淡々と話す加絵ちゃんの言葉は、あっさりとしている分余計に私の胸に響いた。