揺れない瞳
新しい二人



クリスマスが近い。大学も冬休みに入っている。
去年の今頃は、受験勉強に明け暮れる毎日にうんざりしながらも、医学部合格の為に必死で勉強していた。

『自分が望むように、未来を決めればいいのよ』

わざわざ俺が通う高校まで来てくれた芽依ちゃんが言ってくれた言葉を励みに勉強を続けていた。その言葉を聞かされるまで、自分が望む未来を真面目に考えた事はなかった。
両親が医者だからという理由で俺が医者を目指すならば、やめなさいと遠回しに話す芽依ちゃんは、心底俺を心配していた。

そして、俺が抱く素直な気持ちを芽依ちゃんに話しながら、自分でも、本当に望む未来を確認できたんだ。

医者になりたい。

両親が喜ぶからという理由ではなく、自分の意思で医者になろうと思っている自分に気付いた。

小さな頃から、家庭を犠牲にしても仕事をまっとうしてきた両親に、反発しなかったと言えば嘘になる。
学校行事にも滅多に顔を出さないどころか、家事全般芽依ちゃんに頼っていた母さんを毛嫌いする時期もあったけれど。

俺のそんな気持ちに気付いていただろう時ですら、仕事のペースを落とす事はなかった両親が、そこまで全てを捧げる事ができる医者という職業に興味を持って、次第に自分も目指すようになった。

『医者になりたいのは自分の希望だから、安心して』

芽依ちゃんにそう告げた俺の気持ちには、なんのためらいもなかった。

芽依ちゃんの幸せ。
医者になる事。

その二つが俺にとっての全てに近かった一年前と、今を比べて愕然としてしまう。
確かに、今でもその二つを大切に心にとどめている事に変わりはないけれど。

今の俺には、もっと大切なものがある。

結乃という恋人が、俺にとっての一番大切な存在だ。


< 283 / 402 >

この作品をシェア

pagetop