揺れない瞳
その晩、央雅くんは私の部屋に泊まってくれた。

『今日は一緒にいられるだけでいいや』

と苦笑しながら、ただ側にいてくれた。ソファに並んでテレビを観たり、製作中の冬休みの課題を見せたりしながら過ごした。

何度もキスをした。
ただ肩を寄せ合って体温を感じた。
見つめ合うと心臓が波打った。

交代でお風呂に入った後、私は普段パジャマ代わりに着ているジャージ素材のロングワンピを着て照れてしまった。
央雅くんは、たまたま以前私が作ったパジャマを着てくれたけど、
『誰のために作ったわけ?』
と検討違いなため息をついてた。

高校時代、施設を出る時に所長さんへのお礼のつもりで作ったパジャマの試作品。
最初に作ったパジャマが今央雅くんが着ているもので、実際に所長さんにプレゼントしたのはこの次に作った物。
試作品よりも縫い方は丁寧だし糸の始末もきっちりと終えている自信作。

「もっと着やすいパジャマを作るから、今日はこれで我慢してね」

茶色とオフホワイトのストライプのパジャマは、央雅くんにぴったりだったけれど、次は試作品じゃない、もっと着心地のいい物を央雅くんの為に作ってあげたい。

「……結乃とお揃いで、作ってくれ」

にやりと笑いながら私を見下ろす央雅くんは、ちょっと縫い目が荒いパジャマが良く似合っていて格好良かった。
満足して笑う私を見て、更に笑ってくれる央雅くんの事、本当に好きだと思った。

そんな慣れない甘い雰囲気に包まれていた私達だったけど、央雅くんは私をその腕に抱きしめたまま、それ以上を求めなかった。

ベッドの中で、二人寄り添って迎える朝に、これ以上ないくらいの幸せを感じて、そして父に会う勇気を体に満たす事ができた。

本当に、素敵な朝だ。



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