他がために悪はある
「死にたくないならば、どけえぇぇ!」
彼女の叫びだった。
決して、相手を慈しんでいるわけではない。殺したくないと嘆いたわけではない。
ただ、切る手間を減らしたいだけであった。
百はまだ切れる。だが二百は危うく、三百になればなし崩しになってしまう。
少しでも、効率良く殺すためであった。
――全ては、彼のために。
彼女には尊敬し、愛すべき上司がいた。
中佐となる彼だが、この戦いで直属たる部下の自分が勝利に貢献すれば、晴れて彼も大佐となろう。
彼の名誉が上がるならば、喜ばしいことこの上なかった。