Liberty〜天使の微笑み


「――市ノ瀬、入るよ」


 ドアをノックすると、声の主は部屋へ入って来る。

 声を聞いた途端、私の心はやけに弾んでいた。


「もう少しで退院だって。よかったな」

「う、うん……」


 あの日以来、こうして二人だけで会うのは初めてだから……なんか、妙に恥ずかしい。

 今は、まだうまく笑えないことが、ちょっとだけありがたかったりするかも。

 とはいっても、頬が赤く染まってしまうことだけは、どうにもなりそうにないけど。


「退院したら、まずは福原の家でお祝いだってさ。アイツかなり張り切ってさぁ」


 ……私だけ、なのかなぁ?

 橘くんは、いつもと変わらない様子で。自分だけがすごい意識してるんじゃないかって、なんだか気になってしまう。


「…………」

「――市ノ瀬? 市ノ瀬?」


 何度か呼びかけられ、私はようやく、呼ばれていることに気が付いた。


「どこか痛むの?」

「違う、よ。えっと……ほん、とうに。大丈夫、だか、ら」

「大丈夫な割に――顔、赤いよ?」


 どこか悪戯っぽい笑みを浮かべながら、橘くんは顔を覗き込んできて。そのあまりの近さに、心臓がバクバクと音をたて始めていた。


「何かあるんだろう? 言ってくれないと……」


 ふっと笑みを見せた途端、耳元の髪の毛に、そっと口付けをされた。


「く、くすっ、ぐったい……!」

「言わないと、もっとくすぐるよ?」


 変わったことと言えば、一つだけあった。

 あの一件から……橘くんが、すごく甘いということ。あれからしばらくして、美緒が海さんと来てくれたんだけど、そこでも橘くんは、意外な行動を見せた。二人の目の前だというのに、抱きしめての付き合う宣言。

 正直……うれしいというより、恥ずかしいという気持ちが勝っていた。
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