Liberty〜天使の微笑み


「…………」

「…………」


 しばらく無言のカレ。

何も言わず、ただ視線を交わらせるだけ。どれだけのそうしていたのか――ようやく、カレは口を開いた。





「俺じゃなかったら……どうする?」





 発せられたのは、そんな言葉。

 意味がわからないでいると、カレは尚も続ける。


「実はあの時のは朔夜で、俺が嘘をついてたとしたら……どうする?」


 あの時の人が……橘くん?

 それだけでなく、ウソをついたとか。

 予想もしなかった言葉に、私の頭は、なかなか追いついてはくれなかった。





「…………冗談、でしょう?」





 ようやく出た言葉もそれぐらいで。他にも色々言いたいのに、今は、これが精一杯だった。


「冗談じゃなかったら? お前が欲しいから。アイツに取られたくないから、先に近付いたアイツのふりしてたって言っても――それでも、お前は俺を選ぶか?」


 冗談にしては、カレの言葉は真剣みを帯びていて。

 今の話が本当なんじゃないかと、そんなことを思わせるほどの雰囲気。





「わた、しは……純さんが……好き、だよ」





 ウソではない言葉。なのに心のどこかで、今の言葉を認めたくない自分がいるような……そんな、ちぐはぐなした感情が、体を包んでいた。


「今の言葉……忘れるなよ?」


 ニヤリと笑みを見せると、カレは貪るように、私の唇を奪った。ついばむように、何度も何度も唇に吸い付き、それは次第に首、そして胸へと移動していく。


「んんっ!……だっ、め……だか、ら!」


 拒んでも、力でかなう訳もなく。

 胸に顔を埋め、カレの舌が、肌をゆっくりと這う。





「お前は……俺だけ見てろ」





 その言葉を最後に、カレはそれから何も言わず、一心不乱に私を抱いた。

 声を出さぬように耐える私をたのしむように……その日の行為は、今まで一番、一方的なものだった。
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