メリアと怪盗伯爵

4話 黒伯爵


 いまだ嘗て、メリアはこれ程までに屈辱を感じたことは無い。
 そして、悔しい思いをしたことも・・・。

 テレサの後押しで、どういう訳か再びワゴンを押して客室に訪れたメリアは、緊張した面持ちで入室したのだった。
 食事を終えたモールディング伯爵とランバート伯爵は丸いテーブルを挟み、何やら和やかに話をしていた。
 
「食後のティーをお持ち致しました」
 なんとかそう言い終えると、なるべくいつもの手つきでメリアはティーを注いでゆく。
 自慢じゃないが、ティーを入れる腕はこの屋敷でも一番巧いと、他の客人からも評判だった。
「ああ、ありがとう。ちょうど飲みたいと思っていたところだったんだ」
 モールディング伯爵が柔らかな笑みを浮かべ、メリアの入れたお茶を嬉しそうに見つめている。

「あの・・・、先程は無礼な態度を取ってしまい、本当に申し訳ございませんでした」
 メリアは今できる精一杯の気持ちで、二人に頭を下げた。
「そんな、気にしないで。僕は寧ろ君に好感を抱いていた程だ。エドは、少しばかり気が立ってたみたいだけれど、君が気にすることはないよ。いつものことだから」
 エドとは、どうやらランバート伯爵の愛称のようだ。エドマンド・ランバート。これが彼の正式な名前だ。 
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