メリアと怪盗伯爵

9話 メイドと夜会


 一人で出掛けたパトリックが、屋敷に帰ってくるなりとんでもないことを言い出した。

「メリア!! 夜会へ一緒に出てくれ!!」

 主の上着を預かり、皺のいかないように丁寧にそれを腕に引っ掛けた矢先のことだった。

「・・・夜会・・・でございますか?」

 メリアは全く話の意味を飲み込めずに、パトリックのきらきらした澄んだ茶色い目を見返した。
 昼間、リリー・サリーが言った一言を思い出し、メリアはパトリックの顔を真正面から見ることができない。ダーク・ナイトがひょっとすると彼かもしれない、という疑問と期待が膨らみ、緊張の顔が強張りそうになるのだ。
 預かった上着の皺を伸ばす仕草をして、さり気なくパトリックから視線を逸らした。

「ああ。今週末にデイ・ルイス侯爵の屋敷で、妹君の婚約を祝う夜会が開かれるんだ。それに、メリア、君について来て貰いたいんだ」
「まあ、デイ・ルイス侯爵様の・・・? それはおめでたいことでございますね」
 メリアは、視線を逸らしたことで、些か緊張が解けたことにほっとし、まるでそれが他人事の話でもあるかのようにそう答えた。

「それはそうなんだが・・・」
 パトリックは何やら言いにくそうに右手を腰に当て、声を落とした。
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