今度はあなたからプロポーズして









「よかったじゃないですか」








わしの中の葛藤は
直前で弱さを選んだ。





春江は黙ったまま
ペンを走らせている。





返ってくる言葉が怖かった。





わしは動揺を悟られまいと
気がつくと
拳を強く握り締めながら
精一杯の笑顔を作っていた。






春江は何を返すでもなく
しばらく黙って
スケッチブックに向かっていたが




急にペンを止めると、








「そうね…
 素敵な方だといいわ。


 できれば、
 素直で嘘をつかない方がいい」





と寂しげにわしを見つめながら、
皮肉交じりに笑顔を返す。





春江もまた精一杯に
笑顔を作っていたに違いない。





その声は
普段の穏やかなものではなく
振り絞るように大きくサバサバと
しておった。






戦わずして諦めたわしを
叱咤するかのように、の。






< 75 / 202 >

この作品をシェア

pagetop