すべては数直線の上に+詩集
携帯電話を耳にあてると僕の耳は発信音をしっかりキャッチした。
呼び出し音が二度、三度と繰り返し鳴る間、僕は電話をかけたことをちょっと後悔していた。

なんせこちらから電話しておきながら、今の僕には相手が誰だか分かっていないのだ。
電話に出た相手にいきなり「あなたは誰ですか?」なんて失礼なこと聞けやしない。

四度目の呼び出し音が止み、五度目…となるちょうどその間に相手は電話に出た。

「もしもし?」

男だ、男の声だ。
女の子ではなくてがっかり?
そんなことはない。

「もしもし、海老原だけど…」

いきなり「あなたは誰ですか?」などと聞けない僕は自分の名前を伝えた。ごく自然だ。

「えびくん!久しぶり!」

懐かしい声だ、懐かしい、で誰だっけ…。
僕が思い出せずに悩んでいることを察知したかのように彼の口から答えが明かされた。




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