Honey Bitter
バイクの音は着実に小さくなっていって、私は自分の耳を塞ぐ手の平の力を弱める。
周りは暴走族が来る前の、私がここに来てすぐの時の様な静けさを取り戻していた。
カツン、カツン、カツン。
わざと足音をさせて、ビルの端に近付いく。私の足音はほんの少し空に響いた後、闇に飲まれる。
遥か下に見える駐車場に視線を向けると、50台以上は止まっていたバイクも今は1台も残らずに無くなっていた。
ビルと空中の境のギリギリに立ち、静かに目を閉じる。
生暖かいような、冷たいようなどちらともいえない空気を吸って、ゆっくりと、吐く。
そっと、閉じた瞼を開いた。
キラキラ、キラキラ。
月は今日も綺麗に輝いている。
―やっと、やっと
今度こそ、死ねる。