失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
明け方
不意に目が覚めた
眠ってしまったみたいだ
いつ眠りに落ちたか記憶がなかった
さっきまで
激しく抱かれてた…
記憶が頼りなくて
思わず薄暗い中で手を伸ばす
だがとなりに彼はいなかった
かすかに水音が響く
バスルームから明かりが漏れている
彼は入浴中だと思った
手首にあるはずの鎖を
無意識にたぐっている自分に気づく
あれにつまずかないようにする為の
あの部屋で飼い慣らされた僕の
ベッドから出るときのクセ
鎖がないことが逆に不思議になる
あれ…
いつの間にかTシャツを着てる
彼が着せてくれたのかな…
彼の痕跡だけがあった
暗がりをよろけながら
バスルームの前までたどり着く
すると
浴室のドアの前に
何か白い物が置いてあった
最初それは白い靴に見えた
しかも片方だけ…
なんで靴がここに?
彼のものだろうか
僕は身をかがめて
それを覗きこんだ
だがその瞬間
僕は凍りついた
その靴の爪先には
足の指が並んでいたからだ