失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



両膝が驚きと恐怖でガクガク震えた

でも目を反らすことが出来なかった

これは靴なんかじゃない

切り取られた…足首?

違う…これは…



そ…そんな

あっ



不意に記憶がフラッシュバックした

彼は

右足を引きずっていた

痛めたんじゃない

あれは

あれは




僕は言葉を無くしたまま

バスルームのドアを開けた

キィ…とドアの蝶番が鳴った

「なんだ…起きたのか…」

低い声がバスルームに響いた

彼の背中が湯気の向こうに見えた

彼は湯船につかっていた

僕は濡れたタイルを歩き

湯船の縁に座り

彼を背中から抱き締めた

「…服が濡れるぞ」

彼は振り返りもせず僕に言った

「……」

なにも見つからない

口にする言葉がない

なんで?

なんでそんなことに…

「どうした…」

なにも言わず背中にしがみつき

泣いてる僕に彼は呟いた

「…ああ…あれを…見たのか…」

「う…う…」

返事にもならないうめき声が出た

「上手く出来てるだろう?驚いたか

…君はもっと熟睡してると思ってた

んだが…油断したようだ」

「…ど…うして…」

やっとのことで声を絞り出した

彼はフフッと笑った

「命と引き換えた…君のせいだぞ…

祈ってくれたから生き延びた…あれ

はその代償だ」






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