失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



「…家に…連絡しなくちゃ」

僕は伏せた顔を両手で覆い

パニックにならないよう耐えていた

親にどう説明したらいいか

本当にわからない

でも生きてるって連絡しなければ…

こんなメチャクチャな

僕の身に起きた異常過ぎる出来事を

いったいどう話せば…


「ああ…そうだな…でも少し待つん

だ…警察が先に君の両親に連絡を入

れるはずだ…私にも報告が入る」

そう言うと彼は湯船から上がった

「え…なんで…報告…って?」


彼は器用に樹脂製の腰掛けに座って

左足だけで浴室を移動した

そういえば彼はいったい

どういう立場で僕を助け出したんだ

ろうか?

まだそのことについては

何も聞いていないことに気がついた



「上司から報告があるということだ

この一件は…」

上司が…警察…?

まさか彼は警察官なの?

彼はひげを剃りながら話していたが

ふとその手を止めた

そしてため息をついた

「…君が居たなんて…」

彼は湯気で曇った鏡を手でぬぐい

その鏡に手をつきうつむいた


「盗聴器を聴きながら耳を疑った…

その声が君だということを認めたく

なかったな…」

「いつ…?」

僕は鳥肌が立つのを感じた

「君を監禁した組織との取り引きを

決めた夜のことだ…覚えているだろ

う?…いや…忘れようがないな…私

も忘れられない…君が叫ぶ声がしば

らく耳についていたからな」





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