失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



そして彼は思い出したように

不機嫌な顔になった

「今回のことで私が君を奪回するの

にどれだけ苦労して上司を丸め込ん

だか…君がヤク中でしかもあそこで

男娼をしてる事情がわからないのに

直接警察が保護すれば良いと何回言

われたか…そのために使いたくない

切り札を使い…イヤな奴に借りを作

り…君には私の恩に報いる義務があ

るぞ!」

彼はいきなり僕の方を振り向き

僕をにらんだ

「この前は秘密が担保だったけれど

今度は恩を担保に君を言いなりにし

てやる…クソっ…なんて生ぬるい脅

迫だ!」

彼は中断していたひげそりを

再開した

「痛っ!」

どこか切ったらしい

「怒りながら剃るからだよ…」

「黙れ」

彼は口をへの字にしながら

残りを剃っていた

僕は彼のそばに座った

「言いなりに…なれば良いの…?」

彼はますます不機嫌に言った

「"なる""ならない"じゃない…言い

なりっていうのは有無を言わせない

ことなんだぞ…それに…」

彼は少し深刻なトーンになった





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