失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



彼がため息をついた

「だんだん早くなる…君を操れない

のは…嫌だ」

「早くて…いいよ…こんなバレそう

なの…心臓に悪いよ…」

「そうか…仕方ない…」


彼は残念そうに僕との結合を解いた

「パジャマが…死んでる…」

さっき僕が放出した体液が

パジャマの裏にべっとりとついてる

「はは…後先考えなかったな…まぁ

とりあえずここでシャワールーム借

りるか」

彼は黒いスーツのポケットから

ウェットティッシュを出して

気だるそうに後始末をしていた

「ついでにそのまま仕事場に戻る

ここで今日は残念ながらお別れだ

君は着替えてパジャマ洗え…私が帰

ってから風呂に行けよ」


彼は勝手に段取りをつけて

乱れたスーツを整え

ネクタイを締め直した

そして今度は僕を正面から

抱きしめた

「考えてみれば…あれ以来だな」

ディープなキス

「いけない…またしたくなる」

彼はフッと僕から離れた

「じゃあな」

愛想もなく床のカバンをつかみ

後ろも振り返らずに彼は出ていった

いきなり淋しい気分になった



結局あの答えは聞けずじまいだった





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