失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】




それでも朝起きられた頃は

まだよかった




初冬に差し掛かると

明け方床の上で寒さで目が覚める

風邪を引きそうなので

寝ぼけながらベッドに転がり込み

そのまま布団をかぶって寝た





起きたら

昼だった





目覚まし…かけたのに

枕元の目覚ましを物凄い勢いで

つかんだ

確認する…掛けてある…

…ということは

目覚ましが聞こえなかったんだ






ダメだな…

ああ…ダメだな




ベッドの上で立て膝をして考える

酒…やめなきゃ

こんなんじゃ



やめたら…どうなる…?

また寝られない夜が来るの?




ゾッとした

頭の中を焦躁と苦痛に支配されて

一晩中ベッドの中で悶え苦しむ



それだけは絶対に

もういやだ






実家に帰って

自分の目覚ましを取ってこなきゃ





違う

違う…

そんなんじゃない

なんで僕は地を這いずりまわって

兄を世界の果てまで

探しに行かない…?

なぜ

ここで

目覚まし時計の心配をしてるんだ?

彼と

あの担当の調査員と一緒に

この街を兄の大学から職場を

兄の写真を持ってかけずりまわって

親戚はもちろん兄の職場

兄の父親の姉にも協力を求めて

初めて会いに行って





そんな3ヶ月が

なんで…途切れて…

僕は止まって…いる

脳裏にフラッシュバックする

激痛の中で希望を探して

掴みたいと渇望していた日々

それを

なんで





そうだ

あれは全否定だったんだ

僕にとってそれは

父親からの全否定

僕が傷だらけになって歩いた道を

無駄骨だと一蹴した

わかっている

父親の焦躁も苦しみも



でも父はわかってくれているのか

僕の苦しみを…






そこで僕の思考は止まった

なぜなら

僕の苦しみを

父に理解されては

ならない

からだ





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