失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
肌寒い昼下がりの
抜けるように乾いた空と
透明な空気の中
見慣れた道を歩いていた
通っていた高校が遠くに見える道
そして
久しぶりにこの厚い扉を開ける
教会の扉を
兄と二人で来た
冬の日以来のこの場所
なぜだろうか?
僕は忘却を願うかのように
この場所に背を向けていた
その気持ちは僕にも
再びここを訪れた今も
はっきりとはわからなかった
無意識…というほかない
それはなんの意識なのか
僕自身にもわからないけど
少なくともここしばらく…
ヤツとバンドをつくり
あの大会で賞を取り
高校を卒業し
兄が失踪するまでの2年ほどの間
僕と兄は本当に穏やかな日々を
送っていた
ひんやりとした礼拝堂に入り
扉を
そっと閉める
振り向いた僕は対峙する
礼拝堂の正面
十字架の
イエスの像を…