失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



「わかった…今はまだ…考えられな

い…明日また…話して」

「ああ…そうしよう」



僕たちは浅い眠りについた

途中何度か目が覚めると

隣で彼が僕を見ていてくれた

「起きてる…の?」

「ああ…」

「寝ないの?」

「君を…見てる」

「ん…」

いつの間にか奈落に落ちるように

眠ってしまう

夢うつつにかすかに唇の感触を

感じながら




朝気がつくと

彼に後ろ抱きにされていた

彼は寝息を立ててまだ眠っている

いつの間に…

覚えてないな

彼の腕が痺れないように

ゆっくりと頭を上げ枕を引き込む

こんな風に抱かれて眠ったの

ずいぶん久しぶりだ



思い出す

夜は欲望の捌け口になり

その場だけの優しい言葉に酔い

朝起きたら独り取り残されて泣いた

クスリ漬けの日々を



あのゾッとするほどの淋しさを

二度と味わいたくないと思っても

この温かさにはリミットがあるんだ

それが悲しくて泣けてきた





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