失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
リビングに向かった彼は
案の定救急箱を持って寝室に戻った
ベッドに腰掛けて傷の手当を始める
「縫うほどじゃない…」
僕はうす目を開けたまま
大人しく手当てを受けていた
痛みがだんだん治まってきたが
身体のどこかに力を入れると
すぐさまズキッと傷に響いた
脱力を余儀なくされる
「こんなまぬけな事態…」
彼が思い出したように笑う
「君らしい…」
反論する精神の余裕はない
「だが…これからキツいな」
彼が真面目な顔になった
「リセット…なんだろうな…現実と
君の認識が一致した…君は晴れて自
由だ…人生の支えになるほどの意味
など初めから存在はしない」
初めから…なかった…?
「君はきっと…兄さんのために生き
ていると自分で思っていた…どうだ
ろう?」
僕はうなずいた
頭の傷がズキッと疼いた
バレてた
隠してもムダなんだ
この人には