失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



(…いやだ…思い出すな…!)



急にまた強烈な拒否反応に襲われる

「…どうしたんだ?」

知らないうちに顔を歪めてた僕に

彼が問いかける

「思いだしかけると…拒否反応が来

る…それで記憶が…止まる…それを

繰り返してる…さっきからずっと…

いやなんだ…思いだしたくない…わ

からない…なんでかわからない」

それを聞いて彼が口を挟んだ

「つまり…君は知ってるんだな」

「え…?」

僕は一瞬ギクッとした

ゾワッと鳥肌

「え……知ってるって…なんで?」

「そりゃそうだろう…知らなければ

恐れることはない…違うか?…君は

わかってる…なにを聞いたかをな」



わかってる…

その先に有るものを知ってることを



「ううっ…!」

思いだしたくないっ…

足元が崩れそうな不安感が僕を襲う

「やめて!…知りたく…知りたくな

いんだ…」



すべてを失いそうな感覚

なんなんだこれは?

僕の全神経が危険を告げる

だからわかる

核心に触れてることが



「やめるか…抵抗が辛そうだ…無理

するとまたショックに陥る危険もあ

る…レポートを先に書いてしまった

方がいいかもな…どうする?」

机に突っ伏した僕を見かねて

彼が助け船を出した

「それもあり…かも…」

顔を机に伏せたまま僕も答える

「君の…覚悟が必要だな」

彼がゆっくりと呟く

本当だ

「ああ…そうだね…あなたの言う通

りだよ」



失うものなんか

ないはずなのに





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