失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】

覚悟の行方




失うものなんか

なにもない



その夜

僕はその言葉を

ゆっくり確かめていた

僕がなにを怖がったのか

知るために



過ぎ去った日々がどこまで僕を

追いかけて打ちのめす余地が

あるんだろうか

まっさらになってしまった

僕の人生というキャンバスを

今さらなにが更に白くするのか



どうせならキャンバスごと

壊してしまいたいとすら思う

そこに新しい絵を書き直せるかなど

今の僕には計り知れない

ここで過去の僕のトラウマが

仮に露呈したところで

恐怖や絶望を感じる何かは

もう僕には残されてもいないと

多少の合理的な思考で考えていた



覚悟…と彼は言った

覚悟が僕にできるかはわからないが

諦めることならできるかも知れない

自分の人生に対する期待を

捨てること

それが今の僕にとっての覚悟と

同じように感じた



期待だ

染み付いてる

どうにか良くしたいって

思い続けてきたんだから

この人生も

兄の人生も



白紙…なんだ

本当に





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