失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
「もう…いいよ…座って…」
兄は僕を質問から解放してくれた
全身の力が抜けるように
僕はそばのパイプ椅子に
ストンと座り込んだ
話せない僕を見ても兄は
嫌な顔ひとつしないで
やさしく僕を見守ってくれていた
「そう…でもね…私が自分の記憶の
ようなものに触れたのはこれだけ…
優しさでも仕事でも家族でもなくて
こんなこと…笑っちゃうよね…でも
それだけこれは私の中で大きいこと
だった…それはわかる」
そして兄は寂しげな顔をした
「恐怖…誰にも言っちゃいけない…
秘密…のような…そんな感覚と一緒
にそれがフラッシュバックしてきた
…死ななきゃいけない…そんなメッ
セージ…夢の中で私は殺されていた
…溺死…海…でも…言いようのない
解放感…」
そして兄は僕を見た
「ねえ…これだけは本当の事を教え
て欲しいんだ…私は事件に巻き込ま
れて海に落ちたって聞いた…その犯
人は私の恋人だったのかな?…私が
生きてるばっかりに…その恋人が困
ってないのかなって…心配で…」
兄は少し苦しそうな顔をした