失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
「もう…思い残すことはないんだ…
ここで起こった“いろいろ”ってや
つがね…私を自由にしてくれた…そ
んなに前の話じゃないんだ…ほんの
半月くらい前…私はもう思い残すこ
とはなにもない…そう思えた…君に
いろいろ聞いたのはね…確かに教え
てもらえたらって思ったけど…それ
より君と話したくて訊いた…キッカ
ケがないと君も私も何話していいか
わからないし…」
それを話す兄は静けさに満ちていた
「ここでのいろいろは…自分では話
しづらい…もし聞きたかったら整形
の先生が私の話を聞いてくれていた
から…その人に聞くといい…伝えて
おく」
なにかを思い出すように
兄は遠い目をした
「そして…なにも思い残すことはな
い…って確信したその直後だ」
兄はさも愉快そうに笑った
「私に警察から連絡がきた…私の身
元がわかったって…あははは…事件
に巻き込まれて捜索が妨害されてい
たっていうのも聞いた…あんなに自
分の事を知りたかった時にはなんの
音沙汰もなかったのに…こんなふう
に気持ちが自由になった途端だよ…
思いもかけないプレゼントだよね…
でも…嬉しかった…それがたとえど
うしようもない最低の過去だったと
してもね」