失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】





兄はおかしそうに笑った

「ようやく敬語が抜けたね」

僕は恥ずかしさに顔が熱くなった

「ああ…うん」

「こんな風に話してたんでしょ?」

「うん…あ…でも…」

「なに?」

「兄貴は自分のこと“俺”って言っ

てた」

兄は面食らった顔をした

「おれ…か…」



ダメだ

どんどん思い出させること

兄貴に言っちゃう

自己嫌悪が襲ってきた

失った記憶を求めてる兄が

切なすぎて

何でも言ってしまいたくなる



「記憶…戻るのかな」

僕は訊いてしまった

兄がどれほどそれを

取り戻したいのか知りたくて



「どうだろうね…もう1年このまま

だ…でも私はどっちでもいい」

意外な答えに僕は驚いた

「いろいろ訊きたくないの?…どん

なことしてたとか…どんなことが好

きだったとか…」

「いろいろ…は…いらない」



それは僕にとって

信じられない答えだった






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