ラッキービーンズ~ドン底から始まる恋~
それからはもう携帯を見ることはしなかった。

机の中に無造作に入れられた携帯は時折、振動で私にメールが入ったことを告げたけれど、もう私には用がない。


本当は、終わる頃に八木原くんに迎えに来てもらわなければいけないはずだったけれど、それは勘弁してもらおう。

あとはリアちゃんがなんとかするだろう。


私にはこれが精一杯。

八木原くんと二人きりにはやっぱりなりたくなかった。


タイミングが良いのか悪いのか、こんな日に限って仕事は早めに終わる。

「いつもありがとうね」という課長の優しいねぎらい付き。


要領が悪い自分でも、少しだけ報われた気持ちがして頭を下げてフロアを後にした。


ちょっとだけすがすがしい気持ちで会社を出る。

夜の風はもうずいぶんと冷たかった。


そろそろマフラーが欲しいな。

着てきたジャケットに首をうずめるように身をすくめてぶるっと震えると、駅の方向へ歩き出そうとした。


だけど。

会社のモニュメントの影に見知った顔を見つけて足が止まってしまった。

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