一期一会
「椅子にお座り」
老婆に促されて椅子に座った。彼女のティーカップに、次いで老婆のティーカップにお茶が注がれる。ティーカップを両手に持つと、顔を洗った、かじかんだ手が徐々に温められていく。それを口に含むと、同時にあの、人の心を落ち着かせる、柔らかな香りが彼女の心を暖めた。
「いつ飲んでも、おばあちゃんのお茶美味しいね」
「ほっほ、年の功というもんじゃて」
「私もおばあちゃんみたいに美味しいお茶、いれられるようになれるかな?」
「どうだろうねぇ……。愛しい人が居たら、美味しくなるかもしれないねえ」
そう老婆は言いながら逆さになっている、もう一つのティーカップを見つめていた。
「そういえば、おじいちゃんはいつもおばあちゃんのいれるお茶は最高だって言ってたね」
「ほっほっほ……」
「おじいちゃんが亡くなってからもう一年か……。やっぱり寂しい?」