一期一会
泥まみれになりながらも、両親をうわごとのように何度も呟く彼女を保護すべく、青年達の一人が集落へ運んでいった。
不幸中の幸いだろうか。幼い彼女には多少のすり傷はあったが、命に別状はなかった。
救助活動は一昼夜おこなわれた。彼女の両親は手をつないだ状態で、骸となって発見された。爾来(じらい)、イェオーシュアは天涯孤独の身となった。
しかしながら、幼い彼女は隣の家に住む、老夫婦に引き取られた。老夫婦は彼女を実子のように接し、育んだ。
老夫婦の愛は彼女の心の傷を癒やした。彼女もまた老夫婦の愛に触れ、笑顔で応えた。それは老夫婦にとって、かけがえのないものとなっていた。彼女の笑顔、清らかな声、天使のような振る舞い、そういったものは皆全て陽光だったのだ。
陽光は老夫婦の心を照らし、隙間を埋め、慈しみ、安らぎを与えてくれた。彼女は老夫婦にとって、まさに天使であった。
そうした楽園の日々を過ごすと、約束の日が到来した。老翁は最愛の妻と天使に見守られ、陽光に包まれながら無何有の郷(むかうのさと)へと赴いた。地上の楽園から、天空の楽園へと旅立ったのである。