一期一会
ふと、イェオーシュアは何も挿していない空の花瓶に目を向けた。
「そういえばおじいちゃん、かすみ草が好きだったっけ」
「そうだね……、結婚してから毎日欠かさずにあの人が摘んできては、よくこの花瓶に飾っていたねえ」
「ふーん……、いいなあ。私もそんな素敵な人と結婚したいなぁ」
「ほっほ、あの人みたいな美男子はなかなか居ないねえ」
「はいはい、ごちそう様です」
「ほっほっほ」
「フフッ」
「そうだ、今日お花を摘んでくるね。まだ寒いから、あまり咲いてないかもしれないけど……」
「ありがとうよ、気をつけて行くんだよ」
「うん、お茶ごちそう様。おばあちゃん、またね」
老婆に会釈をしてコートを羽織ると、彼女は自分の桶を手に持ち、玄関を出た。
外はうっすらと青白くなっている。途中に井戸で水を汲み、自宅に戻ると彼女は歯を磨き、次いでボサボサの髪をとかした後、耳用のブラシで丁寧に耳を撫でた。
髪は女の命という言葉があるが、シェイン族にとっては耳の手入れもかかせない。