一期一会
「始めたばかりで全然当たらないけどね」
言って男は苦笑いをしつつ両手で小さく"お手上げ"してみせる。
「私も初めて弓を持った時は全く的に当たらなかったわ」
「えっ?」
そう男が驚くのも無理はない。森の民の女性は狩りをしないのだから。当然弓の扱いはおろか、持ったことの無いのが通常である。しかし彼女は育ての親である祖父に遊びがてら弓の扱いを教わっていたのだ。
「弓、使えるの?」
「少しね」
と彼女が短く返事する。それで興味を持ったのか、
「良かったら、お手本見せてくれないかな?」
と男が言いつつ持った弓を彼女に向けて、こちらへ来るように促す。誘われるまま彼女は男の方へと近寄っていき、仕方なさそうに弓を受け取る。そうして弦の張り具合を確認する彼女の様子を男は見つめていた。
「かなり固いわね、少し緩めてもいい?」
「いいよ」
それを聞いて彼女は弦の調節をし始める。そうしてものの一、二分で調節を終え、一つ深呼吸をして弓を構えてみる。