一期一会
 

 兎なら仕留めて初の獲物を自慢するつもりであったが、その功名心は一気に吹き飛んでしまった。そのかわり空っぽになった頭に違うものが入ってきた。そうして男は稲妻に撃たれたような顔をして固まってしまった。

 そんなこととは露(つゆ)知らず、重苦しい沈黙に気まずさを感じた彼女は、何か言わなくてはと必死に考えて、やっとの思いでそれを口にする。

「こ、こんにちは……」

 その声は答えに自信が無かったのか、申し訳なさそうに出てきた。

――女神に挨拶された。

 その声はまるで時が止まったかのような、男の意識を揺り起こし、それでやっと返事ができた。

「こ、こんにちは……」

「あ、あの……、今日はとてもいい天気ね」

 そう彼女が話し掛け、男は懸命に言葉を探してはなんとか答えようとする。

「そ……、そうだね」

「いま、何をしてるの?」

 答えは知ってるのだが、彼女はその場を取り繕う為に質問をしてみる。

「弓の練習をしてたんだ」

 手に持った弓を彼女に見せながら男は続けた。

 
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