一期一会
そんなことが頭の中でぐるぐると目眩(めまい)がしそうなほど考えては眠れない日もあった。そしていざ眠ろうと固いベッドに身を横たえ、平凡ではあるがいつかあった静かで心が満ち足りた或(あ)りし日を思いつつ枕を泣き濡らしていたのである。
手紙の返事がきた者は幸せであった。
その手紙にはもちろん軍の検閲があり、ところどころ黒く塗りつぶされてはいたが、見覚えのある字体を見ては安堵し、または欣喜雀躍(きんきじゃくやく)としていた。そうして同封された写真を胸に抱き、手紙が来てない者を気遣い、人気のないところで写真にキスをした者もいただろう。
その次に返事が無くても、子供が居た者は幸せだったろう。
彼女達には月に一度、配給券が配られた。その配給券を手に握りしめ、ある者は甘いお菓子、ある者は毛糸玉、ある者は人形やおもちゃと交換していく。そして週に一度、三時間ほどの子供との面会時間になると、母親はそれぞれの品を手に持っては我が子に与えるのである。