つむじ風。

行きつけのお好み焼き屋のおばさんが余計なことを言った。
「もう、準備できたの?大変ね」って。

ヒヤッとした。

博子は何のことかわからず
キョトンとしていたから助かったものの。

無邪気におまえは広島焼きを頬張る。

自分はうどんを頼んだくせに
おれのそばまで食べようとした。

「いやしいんだよ」
「いいじゃない、けち」


帰り道、俺はいつも通り
おまえの前を歩いた。

そしておまえもいつも通り
後ろからついてきた。

流行の歌を口ずさみながら。

今日も何も言葉が見つからない。

いつだってそうだ。
俺は肝心な時に何も言えない。

博子、おまえは疑うことなく言った。

「次に会えるのは…学校…入学式かな」

「…ああ」

すまない。

もう会えない。

今夜が最後だ。

「じゃあ、おやすみ。バイバイ」
そう言って背を向ける。

待ってくれ。
もう一度顔を見せてくれないか。

「博子」

思わずその名を呼んだ。

おまえは嬉しそうだった。

そうか、名前で呼んだの、初めてだったな。

いつも、おい、とか…おまえ、とか…


「ちゃんと飯食えよ」

こんなことが言いたいんじゃない。

「剣道部でやってけねぇぞ」

博子、俺は…

< 28 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop