つむじ風。

「じゃあな…」
そう言って、俺はその場から逃げ出した。

その一言しか言えなかった。

なぁ博子。
俺ってマジでズルイだろ?

おまえの泣き顔を受け止める自信がなくて、
とうとう別れを言えなかった。

おまえの心底笑った顔を
最後に見たくて、
さよならが言えなかった。

確信犯だ。

恨めよ、俺のこと。

とことん憎めよ。
そんな男だった、そう思え。

だけど…博子、
俺は、おまえが好きだった…


気が付けば河原のベンチに座っていた。

『ねぇ、新明くん』

あの柔らかい声が耳に残る。

情けなかった。
自分自身がとてつもなく!

俺は叫んだ。
腹の底から。

おまえへの想いを込めて

自分への苛立ちに身を震わせて

喉がつぶれるほどに…


そんな声は
鉄橋を渡って行く電車の轟音にかき消されてゆく。


博子…!

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