To.カノンを奏でる君
 花音の何とも言い表せない複雑な表情に、直樹は右手を伸ばした。

 ポンポンと頭を撫でる。


「苦しいね、ノンノン。恋しいね…」


 伝えたいだろう、好きの言葉。誰しもが口にする事を許されている言葉。

 口にすれば楽になれる。けれどその言葉は、見かけよりも重いもの。

 相手が相手なだけに、ずっと心の底で抱えて来た密かな想い。


「大丈夫。想ってるだけ」

「でも……」

「万が一、好きだって言ってしまっても、それは親友としてって言えるね」


 にっこりと笑った花音。

 直樹はただただ悲しげに花音を見つめていた。


 花音が親友だと言うのなら、何故一度も涙を見せなかった?

 一番、好きと伝えたいのは祥多の方だと直樹は気づく。いや、気づいてた。


「バカだよ、二人とも…」


 直樹は泣きそうな顔で笑った。


 約束を忠実に守る花音、必死で自らの気持ちを隠す祥多。

 もどかしい、早くくっつけばいい。そうは思うものの、容易に細工してしまっては二人を傷つけてしまう。

 見守る事しか出来ない。進みゆくのは、当人達なのだから。


「後でパーティの話をしに行きましょうか」

「うん」


 話がまとまったところで、始業の鐘が鳴った。

 直樹は立ち上がり、後方左の席に戻った。





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